シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵 シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵

高齢社会総合研究機構
教員・研究員からのリレーメッセージ

高齢社会総合研究機構の医学、工学、社会学、情報学など様々な専門分野の教員・研究員より、「いま、伝えたいこと」をリレーメッセージとして掲載します。

第9回

私たちの暮らしと文明の利器

二瓶美里 二瓶美里 東京大学 高齢社会総合研究機構・大学院新領域創成科学研究科 准教授

私たちの体には、ウイルスや細菌から身を守る生体防御システムが備わっています。生体防御システムは、直接的に制御することはできませんが、私たちが行動することで、それを維持することができます。例えば、新規のウイルスに対して、マスクや手洗いうがいで暴露されるウイルス量を減らし、質の良い睡眠とバランスの良い食生活、適度な運動をすることで免疫を保つことは、生体防御システムの手助けとなります。

また、私たちには苦境を乗り越え、心豊かな生活を送るために、人とかかわり合う社会性が備わっています。人とのかかわり合いは、単に情報伝達をする働きを持つだけではなく、自尊感情や自己肯定感などを維持することにも関係しています。そのため、外出自粛によって人とのかかわり合いが減少したり、孤立したりするとさまざまな感情が満たされず、不安や不満を感じる方もいるかもしれません。この、人との関わり合いの媒介役となるのがテクノロジーです。

外出が制限された生活が始まった頃、さぞかし不便で不安な生活をしているのではないかと思い、北関東に住む両親に携帯端末でメッセージを送るサービス(LINE)を利用して連絡をしました。聞くと3日に1回買い物に行き、インターネットで新型コロナウイルスに関する最新情報を検索し、毎日数キロウォーキングをしているとか。友人にメールをし、読書や家の仕事をしていると一日はあっという間、夕飯の支度中なのでじゃあね、と通話を切られました。次の日から、マスクや消毒液はあるのか、外出から帰ったときには玄関で上着を脱ぎドアノブを消毒しなさい、買い物に子どもを連れて行かないようにしなさいと、毎日のようにメッセージが入ってくるようになりました。彼らはとりたててハイパーシニアというわけではありません。2011年の東日本大震災や病気などの経験を通して、これまでの生活を維持するにはどうすればよいのかを考え、行動し、テクノロジーを受容し、工夫を凝らして暮らして進化してきたように思えます。まさに文明の利器といえます。

日頃、仕事ばかりで家での過ごし方を忘れてしまっている私たちより、さまざまな時代を生き抜いてきたシニアの皆さんの方が、バラエティ豊かな「おうちえ」をお持ちなのではないでしょうか。皆さんの「おうちえ」もぜひ発信していただきたいです!

一方で、これまで、人とのかかわりが多くない方や、テクノロジーを利用するほど不便ではなかった方は、どのように過ごされているのでしょうか。もしかするとこの「おうちえ」も届いていないかもしれません。もし、皆さまの周りに気になる方がいらっしゃいましたら「おうちえ」を印刷して渡していただけると嬉しいです。

(2020年5月25日)