シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵 シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵

高齢社会総合研究機構
教員・研究員からのリレーメッセージ

高齢社会総合研究機構の医学、工学、社会学、情報学など様々な専門分野の教員・研究員より、「いま、伝えたいこと」をリレーメッセージとして掲載します。

第5回

今こそ、自宅でできる運動の継続を!―テクノロジーを参考に新しい生活スタイルをー

田中敏明 田中敏明 東京大学 高齢社会総合研究機構・先端科学技術研究センター シニアアドバイザー 北海道科学大学保健医療学部 教授

東日本大震災後の2011年5月、岩手県宮古市、宮城県名取市、福島県いわき市の避難所における高齢者の身体活動調査を実施しました。その結果、震災前に日常生活に支障がなかった65歳以上の高齢者72名中8割に身体活動能力、特にバランス能力などの活動能力の低下が認められました。約1-2ヶ月でご自分の身体能力の後退を自覚されていたとお聞きしました。今回も、自宅待機が多い中、高齢者の皆さんの体力維持のご苦労を推察致します。

そこで、「おうちえ」の中で、足指の感覚と運動の重要性とともに簡単なバランストレーニングをご紹介しました。ここで、転倒骨折された高齢者の調査内容から重要な点をご紹介します。それは、階段での転倒です。階段を上り下りする時、足を踏面や蹴上げにぶつけた経験があると思います。これが転倒につながることはご理解いただけると思います。これを解消するためには当然、足の筋力は重要ですが、足関節(足首を上下する)の動きを感知する感覚も重要です。我々の研究で、高齢者の皆さんはこの足関節の関節感覚が低下していることを明らかにしました。筋力とともに、足関節の関節感覚も鍛えて転倒防止しましょう。

トレーニングの一例をご紹介します。手すりのある階段を利用します。まず、段差を良くみます。その後、立った状態でまっすぐ前を見て、足下は見ないようにしましょう。そのまま、決めた段差に一方の足をぶつけないように乗せます。支える足は片足立ちになるのでこちらの筋力も鍛えられます。左右、各5回程度実施して、段差にぶつかる回数を少なくしましょう。できれば異なる段差でいろいろ試してみましょう。

このようなリハビリで重要な事は、できるだけ継続し続けることです。例えば、高齢者が筋力トレーニングを週3回以上、継続して半年間行った際、その筋力は改善するという研究データが多数あります。仮に、その後、病気等で休まざるを得ない場合でも、再度トレーニングを開始すると、トレーニング効果は戻ってきます。ですから、あきらめずにトレーニングは継続する努力をお願いします。

もう一つ、大事なことは、このトレーニングを継続するにはご本人のやる気が重要です。このやる気をどう維持するかが大事です。今回のような長期間の自宅待機を強いられると、このやる気を継続維持することが大変難しいことかと思います。そこで、会えない家族や親しい方がインターネットを用いて、顔を見ながらコミュニケーショを取れたらと思います。スマートフォンの普及で、ビデオ通話が手軽にできるようになりました。声だけではなく、お互いに顔を見せ合うことで、より良いコミュニケーションがとれ、活力につながるのではないでしょうか。また、地域のコミュニティでインターネットを用いて健康教室などの動画配信や、同時に健康状態の確認を取れるようなシステムの構築も望まれるでしょう。そして、高齢の方同士や周囲の方々と地域での生活支援のための協力協働があれば大いにやる気を引き出してくれるのではないでしょうか。

我々は東日本大震災後、この「ネットを介したリハトレーニング」としてバーチャルリアリティ技術を用いた遠隔リハビリシステムを開発研究してきました。コンピュータ画面やスマホから、ネットを介してセラピストやトレーナーの指導を受けながら、高齢者や障害者の方が自分に適したトレーニング実践することができるシステムです。特に高齢者や障害者の方にとって、このリハビリゲームの使い方が容易になる機器デザインをインクルーシブデザイン研究として取り組んでいます。このような遠隔システムが積極的に利用され、高齢者の皆さんのやる気を引き出すのに大きな役割を今後果たせるよう、皆さんの手元に速やかに届くように我々も邁進したいと思います。

(2020年5月13日)