シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵 シニアのためのおうち時間を楽しく健康に過ごす知恵

高齢社会総合研究機構
教員・研究員からのリレーメッセージ

高齢社会総合研究機構の医学、工学、社会学、情報学など様々な専門分野の教員・研究員より、「いま、伝えたいこと」をリレーメッセージとして掲載します。

第2回

自粛生活の住まいとコミュニティ

大月敏雄 大月敏雄 東京大学 高齢社会総合研究機構 副機構長・東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授

現在、疫病対策として、外出せずに自宅で何週間も過ごすという、なかなか慣れない、人生初めての生活の仕方を強いられている方がほとんどだと思います。

平常時のまちづくりにおいては、個人生活を大事にしながらも、家に閉じこもりきりにならないで、必要に応じて近隣の人々とつながりながら、楽しいコミュニティライフを謳歌するというのが基本でした。このために、住まいづくりやまちづくりの分野においては、人がなるべく外に出かけやすい環境、人と人が出会いやすい環境、人々が地域で一緒に何かをして楽しめる環境を、コツコツとつくっていくことが大事だとされてきました。

これが、震災などの災害時になると、家財や家や家族を失って気分が落ち込み、慣れない避難所生活や、仮設住宅暮らしを余儀なくされる中で、近隣とのつながりを再構築することもままならないまま、部屋に閉じこもりがちとなり、孤立化、孤独化を深めていく、というのが超高齢社会の課題となります。このために、東京大学高齢社会総合研究機構では、東日本大震災の際、岩手県釜石市や遠野市に、なるべく外に出たくなる住宅、住戸周りに近隣の人々がちょっとした居場所をつくれる共同の縁側のようなスペース、デイサービスなどを提供できるサポートセンターをあわせ持った「コミュニティケア型仮設住宅」を提案し、支援してきました。

そして現在、私たちはStay Homeが原則の自粛生活を余儀なくされています。これも一種の疫病災害と呼んでもいいと思います。ただ、この災害は通常の自然災害とは大きく異なり、人どうしがダイレクトにつながってはいけない事が前提となりますので、これまで私たちが経験してきた住まいづくりやまちづくりとはかなり異なった対応の仕方が必要になってきます。

何週間も家から出ない生活を続けていると、基本的には2つのことがらが心配になってきます。一つは、知らないうちに運動量が減り、食事が偏ることによって起きる「体の健康問題」です。これには、医学系の専門家からフレイル予防の様々な処方箋が示されるでしょう。そしてもう一つ問題視されるのが「心の健康問題」です。これはさまざまな形で、問題となって現れてきます。

一人暮らしの方であれば、まずは、災害のときと同様な孤立化、孤独化の進展が懸念されます。一人暮らしの方でなくても、それまで普通にコンタクトを取れていた近隣の方、職場の方、趣味の友人、親類といった人々と、なかなか会えなくなることによって、気分が次第に滅入り、誰ともコミュニケーションをとらないことによって、知らない間に認知症が進行してくることも懸念されます。このためには、電話でも、手紙でも、玄関のインターホン越しでも、ガラス窓越しでも、誰かと声を交わす機会を少しでも増やしていく手立てが重要です。もちろん、スマホやパソコンでネットにつながっていれば、声と映像でかなりリアルなコミュニケーションも可能となるでしょう。

また、家族で住んでいて課題になってくるのが、普段はあまり慣れていない「家族がいつも一緒」と「リモートワーク」という二つのことがらです。普段家族といつも一緒にいると思っていても、普段なら、ちょっと気晴らしに散歩したり、家をちょっと出たりして気分転換も可能でしょうが、それができないために、家族間の関係が息詰まりになりがちです。また、慣れない「リモートワーク」では、仕事とプライベートの境目で、ちょっとしたいさかいが起こりがちです。こうしたときは、それぞれの家族の生活時間のリズムをわかり合い、都合を配慮し合う、ちょっとした工夫が大事になってきます。

また、感染症の予防に最大限注意しながら、「戸外」を楽しむことにも挑戦してほしいと思います。実は、住宅周りには庭やベランダや屋上といった、ちょっとした「戸外」があります。こうした空間を楽しむことによって、体と心の健康を保ちながら、チャンスがあったら、そこを通してご近所とコミュニケーションをとることにも、チャレンジしてみてはいかがでしょうか?

(2020年5月1日)